第63呟【無電解ニッケルめっき・厚付け編】
【無電解ニッケルめっき・厚付け編】
無電解ニッケルめっきを施す仕事には様々な目的があるけれども、その中でも特殊なのは数十ミクロン単位で製膜しなければならない厚付けだろうか。めっきの析出速度は浴種にもよるけれど大概は時間あたり10~15ミクロン程度だから30ミクロンの仕事なら単純に2~3時間は浸けっぱなしになる。
無電解ニッケルめっきで起こる不良は、無めっき、ピット、ザラ、クラック、変色、クモリ、ムラ、カジリ、段付きなど、数え上げたら切りがない。数ミクロン程度の薄付けめっきならそんなに大事になることはない不良でも、厚付けになるとほんのわずかな切欠が致命的となる。めっき作業は途中で中断することができないから、一度スタートしたら終わるまで結果が判らず、失敗したら作業時間の損失がバカにならない。リカバリー作業でめっき剥離可能な品物だった場合でも剥離にはめっき時間の2~3倍以上掛かるのでこれまた大変な時間コストが無駄になる。
無電解ニッケルめっき浴にはバッチ仕様と補給仕様とがあり、前者は建浴液を一回使ったら捨てる仕様で、後者は成分補給を行って長く使える仕様になっている。それでは厚付けの仕事にはどちらの浴種を使ったら良いのであろうか。コストは高くなるけれどもバッチ浴を使ったほうが無難な理由を述べるとしたら、それは大抵の不良が外部から持ち込む不純物に起因しているから。それ以外に品物自身に付着していた不純物が浴中に紛れ込んで悪さをすることもあるけれど、それはどちらの浴種を使っても同じこと。補給しながらめっきするということは、常に外部から不本意でも不純物を投入していることと同じなのであった。
ではバッチ浴を使うからといって全ての問題が解決するかと言えばそうは問屋が卸さない。めっき浴中に溶け込んでいるニッケル濃度は5[g/L]前後、つまり1リットルのめっき浴にはめっき皮膜の元になるニッケルイオンが5gしかないということ。しかも全てのニッケルイオンがニッケル金属皮膜として析出できるわけではなくて結果的にはその内の半分も使えない。だから、厚付けしようと思ったら相当な量の建浴液が必要になってしまう。厚付けの仕事が単品の一発モノだったらそれでもいいけれど、大量発注品だと建浴コストがバカにならないばかりか泳げるプール並みのめっき槽が必要になってしまう。
プールとかそんなに恵まれた環境は無いしバッチ浴を使えるなんて贅沢なことは早々言ってられないから仕方なく補給タイプを使うことになる。そしてここからが腕の見せ所、補給タイプを使って如何に不良なく製品を仕上げるか。以下にポイントを挙げておく。
(イ)ガスピットを防ぐためにはショック揺動やエア撹拌、添加剤などを利用してガス離れ性を改善する。
(ロ)ガス流れ跡を防ぐためには品物の回転など定期的に位置が変わる様なラッキングシステムを利用する。
(ハ)めっき浴には槽外から不純物が入り込まない様なシステムにする。例えば処理中はフタをするとか、
回転率の速い常時濾過装置を設置するなど。
(ニ)補給液はめっき処理中の本槽ではなく濾過器へ回るオーバーフロー槽へ希釈率を上げて投入する。
特にpH調整剤は水酸化物を作りやすくザラの原因トップなので出来るだけ薄めたい。
(ホ)めっき温度は析出速度と作業時間とを勘案してなるべく下限で使いたい。反応ガスの出方が少なくなるので
ガス関連の不良が出難い。
(ヘ)めっき槽を大きくして処理温度を低くして補給液をなるべく薄めて使おうとすると、蒸発量が追いつかず、
液面が次第に上昇して終いには溢れることもあろう、そんな時は適宜ドレンから液を抜くことも必要。
(ト)浴温度を保つヒーターは、液面付近に露出する箇所へテフロンシールテープを巻いておく。
スチーム蛇管式を使っていると、この付近に析出する浴成分蒸発乾固物や過熱分解析出した
ニッケルザラが浴中へ混入することで起こるザラ不良が見逃せない。
(チ)めっき槽へ品物を浸漬する時にクレーンやホイストから塵が降ってきてめっき前の品物に付着したり、
めっき浴へ混入することも避けたい。勿論、使うジグに脱落しやすい異物があるのは以ての外。
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