やらかした記憶・・・第52呟【コンポジット無電解ニッケル・SiC編】
【コンポジット無電解ニッケル・SiC編】
無電解ニッケルめっきというのは単にニッケルリン合金皮膜を施工するだけには止まらない。予めめっき浴中に色々なものを混ぜておいて、めっきと一緒に共析することで複合皮膜を作り出すことも出来る。様々なものといってもめっき浴に対して無害であって粉末などの微粒子形状のものに限るけれど。
化学記号でSiCといえば炭化ケイ素で、これは非常に硬いことで有名。これを粉末にして粒径を揃えたものはまるで胡椒の粉末。舞い上がったところを吸い込んでクシャミ連発な目にどれだけあったことか。無電解ニッケルめっき浴に対しては特に無害なので、そのままドバドバと投入するとまるで粘土を溶かしたメロンジュースみたいになる。この泥水で複合めっきを行うと、非常に硬い皮膜を得ることが出来るので、ピストンシリンダーなどの摩擦部分への適用例が多い。
自動車のトランスミッションで使っているクラッチ板の耐摩耗性を高めるとかなんとかでSiCコンポジット無電解ニッケルめっきを試作したことがあった。円盤状のクラッチ板の両面に複合皮膜を形成しなければならないので、めっき浴中で常に表と裏を入れ替える様な揺動を行う必要があった。そう、SiCコンポジットめっきで苦労するのは揺動の仕方。ニッケルめっき自体はガス溜まり部分以外ならどんな面でも析出するけれど、SiCは粉末なので降り積もる位置に来た面にしか共析しない。品物が自由に動ける様に大き目のめっき槽を用意し、浴中で無理なく回転できるようなジグをこしらえてさらにそれをギヤモーターで自動回転できる装置まで作ったし。
数十μmの膜厚が必要だったから時間は1時間くらいかかる。その間、手動で品物を回転するような度胸はないから、揺動装置を作る予定で確保しておいた手持ちのギヤモーターの出番。ステンレス線を曲げて引っ掛けを作ったり、ギヤモーター駆動用のシャフトを加工したり、おおよそ化学屋の知識だけでは無理な内容なんだけれど、なんせこちとらメカトロ系技術をも併せ持ってるから何ら問題なし。ま、そんなこんなで苦労して作った試作品ではあったけれど、結局のところ評価されなかったな。
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