やらかした記憶・・・第46呟【ステンレスへの直接めっき】
【ステンレスへの直接めっき】
ステンレスは高い耐食性によってめっきや塗装などの表面処理を必要としない。しかしながら外観向上を目的とした表面処理は需要がある。SUS304やSUS316などの汎用ステンレスに電気めっきや無電解めっきを施す仕事では、大抵はウッドストライクニッケルめっきを前処理で行って密着性を確保している。それを知らずにステンレスへ普通にめっきしたりすると、ペリペリと剥がれてしまい密着性が取れずに慌てることになる。
このウッドストライクニッケルめっきは電気めっきなので、複雑な形状の部品では電気の回らない影部分や裏側などへ均一なストライク層を形成できない欠点がある。板モノや簡単な形状の品物では補助陽極など電極配置を工夫することで対応できることもある。
そこで登場するのがステンレスへの直接めっき方法。ステンレスにめっきして剥がれる原因は、常に覆っている酸化皮膜が密着性を邪魔しているから。この酸化皮膜はステンレス表面を削ったりして除去しても、すぐに再生してしまうとても厄介な存在(ま、耐食性高いのはそのためなんだけどネ)。ストライクニッケルめっきがなぜ有効なのかといえば、陰極作用における発生期の水素ガスで酸化皮膜を還元除去しつつ、同時にニッケルを電着することによって表面改質しているからである! 同じ理屈で電解洗浄が有効ではないかと考えるけれど、せっかく酸化皮膜を除去しても後の水洗洗浄で再生するから意味が無いのである。では直接めっきとは如何なる方法?
室温の硫酸や塩酸にステンレスを浸漬してもガスは出ないけれど、80℃位に加熱した熱硫酸や熱塩酸では流石にステンレスも耐食性を保てず水素ガスを噴き出しながら表面が溶ける。しかしこの後に水洗してしまっては酸化皮膜が再生してしまうので、硫酸や塩酸に濡れたまま次のめっき工程へ投入する・・・、これが直接めっき方法なのである。
具体的には、ステンレスへの無電解ニッケルめっき処理の場合では熱硫酸を使う。品物に付着している硫酸はめっき液に入るとpHを下げるので、大量に持ち込むとめっき析出反応を停止する恐れがあるから浴負荷は軽くしておかねばならない。つまり大量のめっき浴に対し、投入一回当たりの処理量を極力少なくすること。そしてめっき浴に品物を投入したら、すぐに強く揺動して表面の硫酸を散らし、局所的pH低下による不活性化を防ぐようにする。上手くいけば数秒後にニッケル析出反応が始まって勢いよく水素ガスが発生してくるだろう。
こうして直接めっきが上手くいったステンレス片を曲げて、めっき密着性を確かめてみる瞬間がとても楽しい。密着性の悪いめっき品では、ピシッという音とともにめっきが膜の状態で浮いてきて、はぁ~ダメだったか・・・・・、となる。しかし密着性の良いめっきだと、バキッという音とともに素材からおもむろに割れてくれるから、ヨッシャOK!!という具合。これが楽しすぎて試作品のほとんどを割って確かめてしまうという愚行をやらかしたな。
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