やらかした記憶・・・第31呟【無電解ニッケル槽析出事件その弐】
【無電解ニッケル槽析出事件その弐】
泳げるくらい大きな幅2m×奥行1.5m×深さ1mの3000L無電解ニッケルめっき槽での建浴立ち合い。規定量の薬液を投入してあとは規定の建浴量まで純水でメスアップするだけ。といっても、投入しなければならない純水は2500Lも必要でこれがとても時間掛かる。待てない現場の判断でメスアップしながらスチーム温調を入れて同時に加温することになったのだが、これが悲劇の原因になろうとは思いもしなかった。
熱交換器はステンレス製の蛇のようにうねった管で、スバリそのまま『蛇管』と呼ぶ。この蛇管の発熱部分は全て水中に沈めた状態で使う様になっていて通常は水面に露出した状態でスチームを流すことはない。しかしメスアップ途中で加温を始めたものだから、規定濃度よりも濃い状態のめっき液を水面付近で異常に加熱してしまった。ちゃんと薄まっていれば安定なめっき液は、この濃い状態での加熱によって不安定になり蛇管へ析出していたのだった。当然、最初はこのことに気付いていないものだからそのままメスアップと加温を続け、3000Lになっためっき液はやがて規定温度の85℃になる。
建浴当初の無電解ニッケルめっき浴は黒くて深い緑色をしている。しかし今回は違った。炭酸の立ち上るメロンソーダのごとく、緑色なのだがどこからかガスが出ていて白っぽいのだ。現場判断では槽析出しているとのことで、このまま使っても薬液使用量が膨大になるだけだから再建浴するとのこと。当然の判断だろう、品物につく以上にめっき槽への析出が多ければコスト問題になるからだ。しかし再建浴とはどういうことだろう、現場に聞いてみると空け替える槽が無いとのこと、つまり今建てた3000L分を移す空き槽が無いというのだ。槽析出を起こしてしまうと、一旦めっき液を抜いてから硝酸を張って析出しためっきを剥がす作業が必要になる。だからこの3000Lはまだ全然使っていないけれども捨てるしかないという。
建浴に使った薬液代数十万円は一瞬で消えていった。
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